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成長するために必要なこと

2018年09月03日

次のステップへ羽ばたくために――。「100人の壁」に挑むベンチャー経営者がまず考えるべきこととは。

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リクルートマネジメントソリューションズ 齋藤悠介さん
成長著しいベンチャーにとって、商品・サービスが世の中に広まり会社組織が拡大していくことは当然望ましいこと。一方、組織の拡大は、創業期には容易だったメンバー間の意思疎通が難しくなったり、人材育成が滞ったり…といった課題にもつながりがちです。

「成長期にある企業こそ、リスクや課題を予測して手を打つべき」。

そう指摘するのは、会社組織にまつわるコンサルティング・執筆活動や人事責任者を集めた座談会のファシリテーターなどを務めるリクルートマネジメントソリューションズの齋藤悠介さん。急成長を目指す企業に立ちはだかる「100人の壁」「200人の壁」を乗り越えるために、何を考え行動すべきなのか。ベンチャーが取り組むべき組織マネジメントについて伺いました。

齋藤 悠介(さいとう ゆうすけ)

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ ソリューション統括部 コンサルティング部部長。エンタテインメント関連企業における事業開発室・経営企画室などを経て現職。組織開発や経営理念浸透、CFT(クロス・ファンクショナル・チーム)活動支援、人事制度構築などさまざまなコンサルティングに従事。

「事業の伸び」と「人・組織の伸び」にはタイムラグがある

事業成長と組織成長の関係性について

(出典:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)

――創業期はトップの力によってロケットスタートを切ったものの、一定規模になると組織に歪みが生じて次のステップへ羽ばたけない企業が少なくありません。理由はどこにあるのでしょうか。

例えば、創業5年目までトップと3~4名の熱量の高いメンバーでサービスを進めてきたベンチャーがあるとします。その会社が「うちのサービスは市場で受け入れられそうだ」ということになれば、拡大化のステージへ入り新しい人を採用することになりますよね。しかし、新しい人達は必ずしも同じ熱量の人たちばかりではありませんし、創業メンバーと同じ考えを持っているとも限りません。

マネジメントを任せた人の考えがそれまでの経営陣の考えと違うと、組織としての秩序が失われ、属人的な運営の限界が訪れます。そこで必要なのが、会社としてのルールや仕組みを整えること。私たちはこれを、「拡大化」に続く「公式化」のステージと呼んでいます。

各発展ステージの初期特徴とひずみ

(出典:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)

――考え方が違う人が入ることで、具体的にどのよう問題が生じるのでしょうか。

トップが大切にしていることがマネジメントで咀嚼(そしゃく)されずに部下に伝わることで、トップが不信を持たれるきっかけになり、トラブルや不正が起きたりします。事業がぐっと伸びるタイミングで人や組織も伸びればいいのですが、多くの場合、事業の伸びと人や組織の成長にはタイムラグがある。それに起因してさまざまな問題が起こるわけです。

そこで経営者の多くは、「思いを共有してきた創業メンバーにマネジメントを任せよう」と考えます。「自分と同じ考えを持ち、個人として結果を出していて、社内での存在感も大きいから」という理由でチームを任せるわけです。しかし、ベンチャーで育った人は往々にして「被マネジメント体験」が少ない。自身が組織内でマネジメントを受けた経験が乏しく、マネージャとしてのスキルが身についていないことがあるのです。

マネジメントには2つの意味があります。「事業をマネジメント」することと、「人をマネジメント」すること。成長企業のハイパフォーマーは事業のマネジメントには長けているのですが、人については弱いというケースが多いです。チームや職場での人間関係を築けず、メンバーから「言っていることは圧倒的に正しいんだけど、この人にはついていきたくない」と思われてしまう。そのせいで、次のステップへ羽ばたくことができなくなってしまうのです。

マネージャは、「聞く」「理解する」ことに努めるべき

齋藤悠介さん

――では、成長期の企業にはどのようなマネジメントが必要なのでしょうか?
これは成長期の企業に限った話ではありませんが、マネージャとメンバーの間に信頼関係がなければ、どんなに正しいことを話しても刺さりません。必要なのは相互理解であり、そのためにはまず、マネージャが積極的に自己開示すべきです。しかし私が見る限りでは、伝えたいという思いが強く、メンバーの話を聞くよりも自分が話してしまうマネージャが圧倒的に多いですね。

これは手前味噌になってしまいますが、リクルートのスタイルはその真逆だと思います。メンバーに「なぜ?」を繰り返して聞き、「君はどうしたいの?」と問いかけて相手の意志を尊重することが大切だ、という文化が浸透しています。

「聞く・話す」の時間配分を逆転させて、メンバーの話に耳を傾けることで、メンバーは「自分と向き合ってくれている」と実感します。マネージャは自分が何を大切にしたいかを話し、相手が何を大切にしようとしているかを聞く。そのようにして相互理解を深め、コミュニケーションを成立させていくことが必要でしょう。

数字だけでなく「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の体現度合いも評価する

齋藤悠介さん

――「100人の壁」「200人の壁」に直面した時、企業や経営者は何をすべきなのでしょうか?

人が増えると、「マネージャによって言っていることや判断基準が違う」ということはよく起こりますし、社員数が100名を超えれば、経営者が直接メッセージを発信する機会も減っていくでしょう。そうして、創業時に大切にされていた想いが共有されなくなっていきます。

私は、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」といった組織文化を、このタイミングで明確化すべきだと考えています。経営として大切にしていることは何か、目指す場所はどこなのか、そのために大事にすべき価値観は何なのかということを整理し、発信していくべきです。

創業期に定めた「ミッション」「ビジョン」「バリュー」が規模感とともに変わっていくケースもあるでしょうが、完全に変えてしまうのではなく、もともとあった言葉の意味を再解釈したり、付け足したりといったケースもあっていいと思います。

――「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を社内に浸透させるためには、どのような方法が有効だと思いますか?

大前提は、トップがコミットして発信し続けていることです。トップ自身が日常行動の中であるべき姿を示し、創業時の熱量を体現していかなければいけません。メディアなどで発信し続けることも効果的だと思います。その上でインナーコミュニケーションを充実させる。全社表彰などの晴れ舞台でも「この会社で称賛されるということはどういうことなのか」を明確にするといいと思います。

また、評価制度において「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を体現できているかに重きを置くことも大切ですね。短期的な業績貢献に報いるという観点で数字を重視することが多いと思いますが、中長期的には「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の体現度合いを評価し、それに応えてくれる人をマネジメント層へ引き上げていくことが重要でしょう。

創業の熱量を継続するための3つのポイント

(出典:株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)

会社のフェーズにあわせてメンバーを動機付けする

――執筆された記事の中で“成長期の企業にはメンバーに対する「重層的動機付け」と「衛生要因の整備」が必要”とご指摘されていますが、この2点について詳しく教えてください。

創業期は経営者が直接メンバーを動機付けできていても、人が増え会社の中の階層が増えてくると、経営者とメンバーの距離がどうしても遠くなります。そこでやりがいを維持させるためにはミドルマネジメントの存在が重要になってきますし、報酬面はもちろん、報酬以外の非金銭的な部分で同僚から評価されるとか、やりがいにつながる複数のポイントを示す必要が出てきます。それが「重層的動機付け」です。

一方、社員数が200名や300名という規模になっていくと、社内のオペレーションを安定化させていくための仕組みも必要になっていきますが、バックオフィスの業務を円滑に進めるためには、ベンチャーで活躍するようなタイプの人ではなく、着実に事を成すことに長けているような人が必要になります。そうした人が働きやすい制度を整えることが必要ですし、長く働き続けるメンバーの中には、ライフステージの変化によって以前のようにコミットできなくなる人も出てくるでしょう。そうした人を制度面で支援するのが「衛生要因の整備」です。

――具体的にはどのような施策が必要ですか?
例えば、リモートワークや副業を可能にするなど働き方を多様化させたり、育児手当など福利厚生面を充実させたり、人事制度の評価をクリアにしたり、ということが大切なポイントになると思います。

衛生要因の整備は、メンバーに「私は公正に扱われている」「私は会社に理解されている」という意識を持たせることにつながります。これが棄損されてしまうと、組織の中で倫理観を持って当たり前に行動することができなくなります。例えば、受付にゴミが落ちていても誰も拾わない状況であったり、不測の事態が起きた時にメンバーが率先して柔軟に動くような風土が育たなくなってしまいます。

ただし、そこまでのフェーズに達していないうちに「いい人を採用するためには働きやすさが重要だよね」という安易な発想で整備を進めてしまうのは危険だと思います。まず経営者が、その働き方改革が本当に必要だと認識していること。そう考えると、少なくとも社員数50名くらいまでのフェーズでは「ミッション」「ビジョン」「バリュー」に魅力を感じる人を探していくべきで、働き方に柔軟性を持たせるのはもう少し先の、オペレーティブな部分の強化が必要になったときなのかもしれません。自社のフェーズにあわせて、「重層的動機付け」と「衛生要因の整備」を図っていくことが重要です。

現状や将来に向けた課題を、会社の全メンバーで共有する

齋藤悠介さん
――最後に、「100人の壁」に挑む経営者へアドバイスをお願いします。

最近ではシリアルアントレプレナーとして複数の企業の成長過程を知る人も増えています。成長企業が気を付けるべきことも、たくさん発信されていますよね。そうした声に耳を傾ければ、自社の現状を踏まえて、先々生じうる課題を予測することも難しくはありません。「ミドルマネジメントが重要になるから人材育成に力を入れよう」「ミッション・ビジョン・バリューを明確にしよう」といった形で、やるべきことも明確になっていくはずです

しかし一方では、「分かっていても陥ってしまう」こともあります。経営者が十分に理解していても、経営ボード全体では共有されておらず、もはやトップだけで動かせる規模ではなくなっているフェーズです。そうした意味では、定期的に自社の状況や将来の課題に対する認識をすりあわせておくことが必要なのだと思います。

――そうした認識あわせの場には、経営層だけでなく一般社員も参加するべきなのでしょうか?

そうですね。メンバーが感じている課題感を把握するためにも、積極的に全体で認識あわせをするべきです。会社の全メンバーが参加して認識あわせをすれば、ばらつきも見えてきます。経営陣が感じている課題をメンバーが意識できていなかったり、逆に経営陣の見えていない問題が現場に生じていたりという事実をとらえておけば、具体的なリスクが生じる前に食い止めることもできるはず。また、食い止めきれずに問題が顕在化しても、背景となる状況への共通認識ができていれば、スピード感を持って対処できるようになります。だからこそ、全員を巻きこんで同じ方向を向いていくことを意識していただきたいと思います。

文:多田 慎介

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