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2018年10月30日

年9.9万人が介護を理由に離職!?今からやるべき「仕事と介護を両立できる組織」のつくり方

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和氣さん

少子高齢化が急速に進む現代の日本。その中で今、介護を理由に仕事を辞めてしまう「介護離職」が深刻な問題となっています。総務省の調査によれば、2017年に介護を理由に離職した人の数は9万9100人に上るとのこと(2018年7月13日発表「平成29年就業構造基本調査結果」より)。こうした状況を把握しながらも、「対策まで手が回らない」とお悩みの中小企業経営者の方も少なくないでしょう。

今回お話を伺う株式会社ワーク&ケアバランス研究所 代表取締役の和氣美枝さんは、15年以上にわたる母親の介護を続けながら、企業向けに介護離職防止・仕事と介護の両立支援を目的としたセミナーやコンサルティング、個別相談などを開催しています。そんな和氣氏に、介護離職防止対策の方法や「仕事と介護を両立できる組織のつくり方」をうかがいました。

和氣 美枝(わき みえ)

株式会社ワーク&ケアバランス研究所代表取締役、一般社団法人介護離職防止対策促進機構 代表理事。「働く介護者」の立場から情報発信を続け、介護者や企業の担当者と議論を重ねながら、「介護をしながら働くことが当たり前の社会」をつくるために活動している。著書に「介護離職しない、させない」(毎日新聞出版)、「介護に直面した従業員に人事労務担当者ができるアドバイス」(第一法規)がある。

介護離職対策を怠ることは、経営そのものを怠ること

和氣さん

――まず、介護離職が進むと、企業にどんな影響があるのでしょうか。

和氣 これから近いうちに介護に直面するのは、団塊ジュニアと呼ばれる世代です。この世代は仕事経験が豊富で、若手社員を育成する立場であることも多いですが、その世代の人たちが介護離職してしまうと、当然ながら生産性が一気に下がってしまう可能性があります。

一方、中小企業では採用難が続いていますから、離職者を埋めるだけの戦力を確保することも難しい。企業によっては業務を回すことさえ困難になり、経営自体が傾く可能性があります。

また、実は離職する前の段階にもリスクは潜んでいます。介護をしていることを隠し、無理に働くことで健康状態が悪化し、業務に支障をきたしてしまうことがあります。ある企業では、要介護の親御さんを抱えていたフォークリフトの運転手が業務時間中に事故を起こしてしまった、という報告を聞きました。そうなると、企業の信頼まで失われてしまいますよね。

「仕事と介護の両立を支援します」と宣言しよう

和氣さん

――では、それを防ぐためには、どのようなことが必要でしょうか。

和氣 私が提言しているのは、「仕事と介護を両立できる組織づくり」です。介護者だけでなく、介護者と同じ部署にいる人たちも巻き込んで、介護者が仕事で成果をあげられる環境を作ることを目指します。これは、社員の生産性の向上や業務の効率化、さらには自社の成長・発展にもつながるものだと思っています。

――介護には、「生産性」や「効率化」とは違うベクトルの時間軸も存在すると思うので、両立は難しいとも思えるのですが。

和氣 そうですね。生産性や効率だけではなく、発想を転換して介護の視点も考慮する必要があります。しかしそれは、自分たちが提供しているサービスや商品がブラッシュアップされるチャンスでもあるのではないでしょうか。仕事と介護を両立するということは、ものごとをとらえる視点が一つ増えるという意味でもあると思います。

――では、「仕事と介護を両立できる組織」を実現するために、何から取り組めばいいのでしょうか?

和氣 まずは経営層が「仕事と介護の両立を支援します」と明言することです。中小企業の経営者は社員に対する愛情が深く、社員が困っていたら「なんとかしたい」と考える人がほとんどでしょう。でも、そういった思いに素直に頼れる社員は意外に少ないと思います。企業として「仕事と介護の両立を支援する」と明言し、可視化することで、介護に悩んでいる人が声を上げやすくなります。

ただ、気をつけていただきたいのは、「介護者が介護に専念することを支援する」のではなく、あくまで「介護をしながら働ける環境をみんなで一緒に考えていきたい」と宣言する。これが大切です。

次にやるべきことは、管理職やマネージャが、「仕事と介護の両立の支援」を現場に浸透させることです。経営層が宣言し、支援制度ができたとしても、現場社員にその意識が浸透していなければ意味がありません。

介護は突然はじまることもあります。それまで他人事だった人が急に当事者になることもあり、「他人事だったがゆえに社内制度を知らなかった」という場合も少なくありません。そのためにも、管理職やマネージャが日頃から「仕事と介護の両立の支援」をする企業であることを広報し、浸透させた方がいいでしょう。

最後に、風通しのいい組織を作ること。まだまだ介護に対する世間からのイメージは暗く、介護をしていることを他人に言いづらい風潮があります。でも、コミュニケーションが活発な職場なら、社員の異変や悩みをキャッチアップしやすくなるはず。日頃から深い話をする必要はありませんが、誰かの出産を気軽に祝えるぐらいの雰囲気を作るだけでも、風通しのいい組織になると思いますよ。

介護をしていてもしていなくても、同じ「一社員」

和氣さん

――介護の悩みを抱えている社員と接するときに気を付けるべきことは何でしょうか?

和氣 まず、介護者に何を求められているかを理解しましょう。多くの場合、介護者が企業に求めるのは職場の理解、協力です。

介護者となったばかりの人は、自分がどうすればいいのかわからず、いつもやっている業務でさえ、上手にこなせなくなることがあります。もし社員から「介護をすることになりました」と相談があったら、まずは話を聞くことに徹してください。不用意にアドバイスをする必要はありません。アドバイスはカウンセリングに近く、精神的な影響が大きいからです。まずは話を聞き、状況を共有した上で、まずは仕事に集中できる環境を作るための制度や地域包括支援センター(※)の存在を教えてあげましょう。

介護は初動支援が最も大事です。介護が始まったら育児介護休業法の各種制度をはじめとする、最低限の情報提供が出来たり、また介護がキッカケで仕事のパフォーマンスが落ちたときに状況を分析して適切な支援をしてくれる「相談窓口」と連携しておくとなおいいと思います。

※地域住民の保健・福祉・医療の向上、虐待防止、介護予防マネジメントなど総合的に行う地域機関。基本的に各区市町村に設置されている。

――その他、介護者と接するときにしてはいけないことはありますか?

和氣 大きく3つあります。まず当たり前のことですが、「キャリアに影響するよ」といったような、介護者に不安を与えるような発言をしないこと。もし本当に介護がキャリアに影響するなら、これは大きな問題です。介護者でもキャリアアップできることを示せば、介護者は希望を持って仕事を続けられるはずです。

次に、「家族は協力してくれないの?」「親族は手伝ってくれないの?」といった身内の協力体制に関する質問をしないこと。身内の話は複雑な場合も多く、状況を説明することさえ負担になることがあります。

最後に、「介護施設に入所させられないの?」といったような、介護環境に対する助言です。介護環境の選択には金銭的な事情が絡むこともあり、非常にデリケートな問題です。専門家や支援者以外からの助言は、介護者が「何も知らないくせに」と嫌悪感を抱くきっかけになる場合があります。

――専門的なところは専門家に任せる意識が必要ですね。

和氣 経営者として何より一番重要なのは、これまでと同じように「一社員」として接することです。「介護で大変そうだから」と必要以上に気を使われると、職場の居心地が悪くなり、介護の話もできなくなってしまいます。飲み会が大好きな私の知人は、「誘ってもらえなくなるのが嫌」という理由で介護の話ができなかったそうです。介護者への気遣いは必要ですが、だからといって腫れ物に触るような扱いは避けるべきです。

介護者の健康状態を気にかけてあげることも忘れてはいけないですね。仕事でミスを繰り返したり、集中力に欠けている場合は、「ちゃんと睡眠はとれてる?」などと声をかけましょう。疲労が溜まっているようであれば、休むことも勧めてください。「自分は必要とされていないんじゃないか?」と思わせないように、「頼りにしているからこそ、しっかり休んでまた会社に貢献してほしい」と伝えましょう。

経営戦略として介護問題に向き合うことが大切

和氣さん

――最後に、これを読んで本格的に「仕事と介護を両立できる組織」を作りたいと思われた経営者に、その組織作りのアドバイスをお願いします。

和氣 管理職も巻き込み、一緒に介護の勉強をして、経営戦略として介護の問題に向き合うことをお勧めします。自社のCSRとして介護に取り組むのもいいかもしれませんね。また、中小企業どうしの横の連携を活かして、他社と合同でセミナーを開催するのもいいかもしれません。

中小企業の場合は、会社が地域に根付いている場合も多いでしょうから、自社の社員だけでなく地域全体で介護を考える機会を提供すれば、地域貢献や自社のイメージアップにもつながります。ある企業では、積極的な介護への取り組みがテレビで紹介され、それが意欲の高い学生からの新卒応募につながりました。

――介護離職に取り組むことが企業の成長につながるという意味がよくわかってきました。

和氣 介護は生活の一部です。生活に密着しているものには、ビジネスに生かせる要素が必ずあるはずなんです。社員の介護問題に戦略的に取り組むことが、結果的に強い組織づくりにつながっていくのではないでしょうか。

文:木村和博

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