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成長するために必要なこと

2018年11月08日

『起業の科学』著者が語る、ビジョンにつながる「不」の感情とは?

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田所さん
あなたが「スタートアップで成功したい」と思ったとき、その事業にまず必要になるものは、いったい何でしょう。他人が真似できないようなオリジナルなビジネスモデルでしょうか。それとも、不景気にも負けない潤沢な資金でしょうか。

今回お話をうかがったのは、多くの新規起業家にとってバイブル的存在とも言われる「起業の科学 スタートアップサイエンス」(日経BP社)の著者、田所雅之さん。日本を代表する大手企業の新規事業から中小まで、数々のスタートアップのアドバイザーを務めた経験から、またご自身も複数のスタートアップを立ち上げてきた実績から、ある一つの答えを私たちに示してくれました。今まさにスタートアップを立ち上げようとしている人、「いずれは自分も」とそのチャンスをうかがっている人にぜひ読んでいただきたい、失敗しないスタートアップに必要な<ビジョン>のお話です。

田所 雅之(たどころ まさゆき)

1978年生まれ。日本で3社、米国で1社のスタートアップを起業。日本に帰国後は、米国ベンチャーキャピタルのベンチャーパートナーを務めた。スタートアップのアドバイザーなどを務めながら、事業創造会社ブルー・マーリン・パートナーズ(東京・港)のCSO(最高戦略責任者)、Webマーケティング会社ベーシック(東京・千代田)のCSOも務める。これらの経験を生かしてスライド集「スタートアップサイエンス」を作成し、国内外で大きな反響を呼んだ。2017年、ユニコーンファーム(東京・港)を設立し、スタートアップの育成支援に注力する。

「事業において何を実現するのか」をまず決める

田所さん

――田所さんご自身も起業を複数回経験されていますが、新たなビジネスをはじめようと考えたとき、まずやるべきことはどういったことでしょうか?

ビジネスモデルを作ることが最優先だと考える人は多いと思いますし、資金がなければはじまらないと考える人もいるかもしれないですけど、スタートアップにおいてまずやるべきなのは、揺るぎないビジョン、つまり、事業において何を実現するのかという核心を作ることです。

最近、スタートアップの世界では、ビジネスモデルの変更を意味する「ピボット」という言葉がよく使われます。確かにピボットはスタートアップにとって最大の武器なんですが、ビジネスモデルとビジョンを混同してしまって、ピボットが自分のビジネスを傷付ける諸刃の剣になってしまうケースが見受けられますね。

――それはどういうことでしょうか?

事業戦略を変えるつもりが、ビジョンまで変えてしまっているケースが多いんです。企業にとってビジョンは最も大切なもの。唯一変えられないものと言ってもいい。そのビジョンが揺らいでしまうと、目的を見失い、手段が目的化してしまうわけです。

ぶっちゃけ言うと、こんな便利な時代に無理してスタートアップをやる必要なんてないんですよ。それなのになぜ起業を考えるのかというと、この時代であってもなお実現したいことが世の中にはあるからですよね。「もっと便利になったらいいのに」とか「なぜこれができないんだろう」とか。これは、ない・できないという<不の感情>です。この<不の感情>や<怒り>こそビジョンにつながるものであって、これがなければスタートアップなど成功しないと僕は思っています。

ビジョンにつながる<不>は至るところにある

田所さん
「起業の科学 スタートアップサイエンス」
(田所雅之・著/日経BP社・刊)

――では、そのビジョンを設定するためには、どんな発想が必要でしょうか。

僕がスタートアップ向けの研修をするときにベースにしているのは、「七つの大罪」の考え方です。キリスト教でいう七つの大罪は、<傲慢><嫉妬(ねたみ)><憤怒><怠惰><強欲(貪欲)><暴食(貪食)><色欲>ですけど、ビジネスの世界で言えば、既得権益というものがそれにあたると。そこにのさばっている奴らが世の中にはたくさんいるわけですが、彼らは実はマーケットリーダーでもあり、あえて高く吹っ掛けて物を売るとか、弱者からの搾取によって生き長らえているわけです。それによって自分は被害を被っていて、自分のような被害者を減らすような新しい何かを生み出したいと考える。こうした発想もビジョンにつながると思います。

――今まで関わってこられた中で、そのロールモデルとなるような事例はありますか?

僕がアドバイザーをした中で一つ面白かったのは、医療業界の事例です。例えば、どこかの山奥の病院でお医者さんが一人で働いているとする。その先生の専門領域は内科なんだけれども、ある日、緊急性の高い外科の急患が来た。そんなときにお医者さんは何をするかというと、まずはググります。ググってわからなければ、友達の外科医に電話する。でも、たいていの場合はつかまらない。致し方なく、最後の手段で医学書を読みながら治療するわけですが、そうしているうちに患者が亡くなるケースも少なくないんです。

――まさに<不>の状況ですね。

患者が亡くなるというのは、医者にとって最悪の<不>です。今言ったようなことは医療の世界でいまだ解決されていない問題で、医者にとっては、なぜ解決されないんだという<怒り>でもある。

しかし、そこである整形外科医が、問題を解決するためのサービスを思いついたわけです。専門領域以外の急患が来たときに、その症状をアプリケーションにアップロードすると、登録しているお医者さんからフィードバックを受けられるというサービスです。

この整形外科医は僕に、「私は一人の医師としては人生をかけても1,000人程度の命しか救えない。でもこのサービスが出来上がれば、おそらく何十万人もの命が救えるでしょう」と言いました。僕はそれを聞いて思わず感動したんですけど、最初はなかなか業界内の賛同を得られなかったそうです。

――それはなぜでしょうか。

それはもう、さっきお話しした既得権益の問題があるからですよ。医療業界には縦割りの既得権益があって、そのせいで、これまでたくさんの救えない命があった。これもまた<不>であって、そこから<患者を救う>というビジョンが生まれた。そういう事例です。その後、そのサービスはクックパッドのようなUGC(ユーザ生成コンテンツ)によるアプリケーションになって、僕はメンターとしてそのサービスをお手伝いしました。

相当インターネットが発達した2018年の、しかも世界の先端を行くようなイメージの日本の医療業界でさえもこういうことが起きているわけですから、ビジョン作りにつながる<不>は、実は至るところにあるんです。それが表に出たら困る人がいるから表に出てきていない。それだけの話です。

勇気を持って<無知の知>を認めること

田所さん

――では、そうした<不>に気付く意識を持つにはどうしたらいいでしょうか。

クリティカルシンキング、つまり常に逆から物事を考える発想が大事かなと思いますね。自分自身を知り、自分自身に何が欠けているかということを客観的に見ること。起業家の99%は自分のことを過大評価していますから、一つの成果をもって自分のビジネスを楽観視してしまう。しかし、本当に必要な発想はその逆の側にあるということです。

――自分の弱いところを認めることがなかなかできない人も多いと思いますが、そういう場合はどうしたらいいでしょうか。

3つあると思います。まずは、お客さまと話すことですね。それによって、自分がよいと思ったものが他者から見ても本当によいものなのか、という判断軸が生まれます。

次には、自分と対話すること。自分と対話し内省して、何が足りないかということを自ら明らかにすること。また、自分は「無知の知」だということに気づいて、そこから仮説を立てること。このロジックが飛んでいる人は、ただの知ったかぶりになってしまう。勇気を持って「無知の知」を認めて「知の知」になるためには、自分が何を知らないかを知ることが必要になるわけです。

その最後は、それを習慣化することです。

今年立ち上げるのに今年のことを考えていてはダメ

田所さん

――田所さんの経験の中で、失敗するスタートアップに共通しているのはどんなところですか?

プロダクト・マーケット・フィット、つまり市場にフィットするサービスではないスタートアップは、当然うまくいきません。課題をでっち上げて、なんとなくソリューションを作ってしまうケース。これはプロダクト・マーケット・フィットではなく、プロダクト<カンパニー>フィットです。

――でも、なんとなく作ったものが偶然ヒットして事業が成功したという例もありますよね。

確かになくはないですが、それは、たまたまバットを振ったらボールが当たっちゃったというような話であって、外部環境が変わってしまったらおしまいですから、長続きはしませんよ。バッティングフォームもめちゃくちゃだから、すごいピッチャーが出て来たらまるで当たらない。打てるようになるためには、自分がどういうフォームで打っているのかを考え、内省化する必要があるわけです。

僕は今、プロダクト・マーケット・フィットをさらに推し進めた「プロダクト・フューチャーマーケット・フィット」を提唱しています。顕在しているマーケットに対して打って出るのではなく、未来のマーケットを考えるという発想です。

例えばアメリカ・フォード社の創業者、ヘンリー・フォードは、速い馬に乗りたいというユーザの願望の裏にある「速く移動したい」という欲求を見抜いて、自動車を作ったんだそうです。本当は車が求められていたわけではないけれど、結果は大成功だった。未来のマーケットを考えた結果ですね。起業家というのは、今年立ち上げるのに今年のことを考えていてはダメなんですよ。

――その未来を見抜く方法はありますか?

もちろん、未来に何が起きるかはわかりませんけど、マーケットやお客さまに共感することを心がけることで、見えてくるものがあるかもしれないですね。

僕は最近、「共感できる起業家はモテる説」を唱えているんです。1990年代までのイケてる起業家というのは、高収入・高学歴・高身長など、ポジショニングでモテる傾向があった。でも、今イケてる起業家っていうのは、どうしてあげたらこの人は喜ぶか、ということを、その人になりきって考えられる人なんです。

モテたい相手に共感すれば、自分に何が足りないのかが見えてきますよね。好かれたいから。そこに<不>を感じることもできるだろうし、クリティカルシンキングもできる。そうすると、決めるべきビジョンも、自然と見えてくるんじゃないかと思いますね。

文:髙橋晃浩

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