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起業後

2018年12月11日

メタモルフォーゼ企業とは?形を変え続ける企業はなぜ強いのか?

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三品さん

主幹となる事業をガラリと変えて成功した会社があります。代表例が、株式会社ミクシィです。同社はもともとSNS運営が主幹事業でしたが、経営の柱をスマホゲームの開発・運営に移したことで売り上げを大幅に伸ばしました。

こうしたメタモルフォーゼ(変化・変身の意味)を遂げる会社=メタモルフォーゼカンパニーは、なぜ強いのでしょう。そしてこれからの時代、会社としても個人としても、どのような変化が必要なのでしょう。

そこで経営戦略論の第一人者である神戸大学教授・三品和広さんに話を聞きました。三品さんからは、冒頭から意外な言葉が・・・。

三品 和広(みしな かずひろ)
神戸大学教授、経営学者

1982年に一橋大学商学部卒業。その後、一橋大学大学院で修士課程を、ハーバード大学文理大学院で博士課程を修了。ハーバード大学ハーバード・ビジネス・スクール助教授、北陸先端科学技術大学院助教授などを経て、2004年より神戸大学大学院経営学研究科教授を務める。不二製油グループ本社株式会社取締役。これまでにハーバード大学ビジネススクールプライズ賞、著書『戦略不全の論理』でエコノミスト賞・組織学会高宮賞・日経BPBizTech図書賞などを受賞。

どんな本業も、いつか寿命を迎えます

三品さん

――経営の柱となる事業を変えて成功した会社があります。例えばミクシィは、2004年に始めたSNS「mixi」の運営で大きな利益を上げますが、その後頭打ちに。しかしSNSのプラットフォームを活かしたソーシャルゲーム「モンスターストライク」を2013年にリリースし大ヒット。モンスト以前の最高営業利益は約37億円でしたが、2015年には約950億円もの営業利益を上げるまでになりました。

またクルーズ株式会社は検索エンジン、ソーシャルゲーム、ネット通販など過去に5回以上も主力事業を変え、創業17年で最高売り上げを14回更新しています。こうした会社が成功した要因はどこにあるのでしょう?

三品 まず初めにお伝えしたいことがあります。決してこれらの会社を否定するわけではありませんが、主幹事業をシフトして数年程度では、とてもメタモルフォーゼ(変化・変身)を遂げたとはいえません。なぜなら、この先もうまくいくかどうかはまだわからないからです。

例えばRIZAPは主幹の減量ジム運営以外にも、積極的なM&Aによる多角経営で急成長を遂げましたが、一転して2019年3月期の連結最終損益が大きな赤字になることが発表されました。つまり参考にすべきは、一定の年月の風雪にきちんと耐えた上でなお成長を続けているという、真のメタモルフォーゼ企業なのです。

――では、そうした長年の風雪に耐えてなお好調という会社の代表例はどこでしょう?

三品 いろいろありますが、例えばキヤノンです。キヤノンは1969年に社名変更するまでは、キヤノンカメラという社名だった通り、もともとはカメラの会社でした。ところがその後多角化を進め、現在の売り上げ構成はカメラが約17%であるのに対し、プリンタや複合機などのオフィス機器が約43%を占めます(※2017年)。もしカメラだけだったら、ここまでの会社にはなっていないでしょう。

それに対して、カメラ一筋を貫いた会社にペンタックスがあります。こちらは2007年にHOYAに買収されてしまいました。メタモルフォーゼができた前者は世界に向けて飛躍し、本業一筋を貫いた後者はなくなってしまったという構図です。

――本業一筋では、長年の風雪に耐えるのは難しいということでしょうか?

三品 そうですね。本業はいつか寿命を迎えます。なぜなら人間は進歩するからです。チンパンジーは400万年前から基本的に何も変わっていませんが、人間は10万年前とは似ても似つかない生活をしています。

そうした進歩のプロセスの中で、必ず“もっといいもの”が生まれてきます。そうなると、古いものは捨てられる。だからどんな事業であっても、遅かれ早かれ「もういらないよ」と言われる宿命にあるんです。

変化することこそが、ビジネスの本質

三品さん

――進歩するとは具体的にどういうことでしょう?

三品 例えばファミレスの世界であれば、最初に出てきたのはすかいらーくでした。ざっくり言ってしまうと、すかいらーくはお店で調理をしていて、店舗の半分をキッチンが占めていました。ところがその後出てきたロイヤルホストは、もともと飛行機の機内食の会社です。なのでセントラルキッチンを持っていて、お店では下ごしらえ不要というビジネスモデルでした。結果、キッチンスペースは店舗の1/4ほどになり、そのぶんお客のスペース=稼働スペースが増えたために、より安く提供できるようになった。当然、お客さまはこちらをとります。

――それでロイヤルホストはブレイクしたわけですね。

三品 そうです。ところがさらにその後、サイゼリアが出てきます。こちらはロイヤルホストと違い一人前パッケージで、注文が入ったら袋から出して温めるだけでOKなので、キッチンスペースがほとんどいらない。だからさらに安くなり、お客さまはこちらを選ぶ。結果、すかいらーくは没落し、ロイヤルホストも一時期より業績が下がりました。最近ではさらにその次として、回転率の高い立ち食い形式によって低価格を実現しているいきなり!ステーキなどが出てきています。

――大企業にもメタモルフォーゼカンパニーは多いのでしょうか。

三品 むしろほとんどの大企業が、どこかで事業を大きく転換していると言っていいでしょう。例えばパナソニックは、主幹となる生産品を初期の二股ソケットから、自転車の砲弾型ライトに移し、さらにその後はテレビに移して大成功を収めました。テレビに行き着いたことで安定した大企業になれたんです。あのトヨタでさえ、はじめは自動織機、つまりは機織り機を作っていました。ところが2代目の豊田喜一郎さんが「もう機織りの時代じゃないだろう」と自動車を作り始め、今に至ります。

――会社を長く存続させるには、むしろ事業転換はマスト?

三品 そうなります。長く続いているほとんどの会社は、まずは取っ掛かりのある分野で事業を初めて成功させた後、事業を少しずつずらしていったり、あるときは急転換したりしています。そのプロセスの中で、より規模の大きい、あるいは寿命の長い事業に行き着いた会社こそが、長く生き残ることになります。そもそもビジネスとは、顧客の欲求を満たすものです。そして人間は進歩するものであり、欲求も変わっていく。つまりは変化することこそが、ビジネスの本質と言えましょう。

没落産業から奇跡の転身を遂げた、映画「フラガール」の炭鉱会社

三品さん

――ほかにも“華麗なる転身”を遂げた成功例を教えてください。

三品 意外と知らない人も多いのですが、トプコンという会社があります。もともとは東京光学機械という社名でした。実はこの会社、戦前に陸軍の要請で、敵までの距離を測る技術を提供していました。そして戦後はその技術を活かしてカメラを製造しますが、カメラの競争では敗退してしまいます。それで次に手がけたのが、メガネ屋さんや眼科で使う検眼機です。これが見事に成功し、検眼機で圧倒的なシェアを占めるようになります。

――みごとな転身ぶりですね。

三品 ところが、さらにその先があるんです。ここにきて手がけているのが業務用のGPSです。例えば最近、ダンプトラックなどの建設機械を自動運転にしますというCMがよく流れていますが、そうした自動運転を可能にするGPSの分野でトプコンが大きなシェアを誇っています。GPSには衛星が必要なのですが、衛星を飛ばしているアメリカ企業を買収し、今やトプコンはGPSで世界3強のひとつに入る企業となっています。

――“斜陽産業”と言われるような、産業や業界全体が沈んでいくケースも少なくありません。そうした状況から転身を成功させた例はありますか?

三品 炭鉱会社から見事に生まれ変わった常盤興産の例が代表的です。映画『フラガール』で知られる事例ですね。常盤興産はもともと、福島県いわき市の常磐炭鉱を運営していましたが、世の需要が石炭から石油に切り替わり、会社は大きな危機に陥りました。頭を抱えた経営者の中村豊氏は、知見を広げようと、なけなしのお金で世界一周の旅に出ます。その最後の地・ハワイでフラダンスを見て、「これだ!」とひらめいたのです。

常磐炭鉱では、60度のお湯が毎分3トンも湧き出していましたが、石炭を掘り進めるためにお湯は捨てていました。それを捨てずに暖房に転用すれば、常夏の施設ができる。さらには坑夫の娘さんたちにフラダンスを踊ってもらい、坑夫たちにはパームツリーやバナナの木を植える作業をしてもらえば……。こうして年間最低気温28度の“1000円で行けるハワイ”こと、『常磐ハワイアンセンター(現:スパリゾートハワイアンズ)』がオープン。多くの観光客を集め、会社は飛躍的に成長しました。

“変化の風”の向きを見極め、自分のものにする

三品さん

――事業転換を成功させるポイントは何でしょう?

三品 メインの事業を変えるとなると、その道を突き詰めてきた社員たちから大きな抵抗に遭います。これを押し通す腕力が経営者にあることが重要です。その点、創業者ではない雇われ社長には難しいものがあります。突然やってきて何なんだ、あんたの一存でそんな大それたことをやっていいのかという大きな逆風を押しのけなくてはいけません。

でもたまに突然変異的にそれができる辣腕経営者が出てくるのがビジネスの面白いところでもあります。それとその分野が斜陽しているときは、その分野にどっぷりつかっていて「まだ戦える」「この業界を守りたい」とそこに固執する経営者より、世界を広く知っていて柔軟に外へ目を向けられる経営者が断然強いです。

――事業の転換先はどのように見つければ?

三品 まず行うべきは、差し迫った変化の風が、自分たちの前から吹いているのか、それとも後ろから吹いているのかを見極めることです。前から吹いている、すなわち向かい風なのであれば、歯を食いしばって前に進むのはとても難しいので、早く諦めて商売を変える。狙い目は、これまでやってきたことを強みとして活かせるもので、まだほとんど誰も手がけていない事業、かつ時代の風を背中に受けて推進力とできるものです。

逆に今すでに風を背中から受けている、すなわち追い風なのであれば、投資をして自分の強みを磨くこと。順風方向には多くの人が集まって競争が激しくなるので、これだけは負けないというコアスキルを見極め、徹底的に磨き上げて攻める姿勢が大切です。

――時代の風を推進力にするとは、どういうことでしょうか。

三品 戦略論の世界では、柔道の例えがよく用いられます。柔道ではただひたすら自分がかけたい技をかけても、そうそう決まりません。でも相手の力を逆手に取れば、大きな相手も鮮やかに投げ飛ばせます。ビジネスでも、ただ自分たちがやりたいことをやったところでなかなか成功はしません。

だからこそ市場や競合、あるいは社会環境やテクノロジーの変化を巧みに捉え、その力をうまく利用できることをやっていくのです。これは現代のビジネスにおいて、企業に限らず、個人としてどう生き残っていくかという話にも通じてくるでしょう。

企画:大崎安芸路(ロースター)/取材・文:田嶋章博/写真:栗原大輔(ロースター)

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