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幸せな会社組織をつくる

2018年12月12日

2人に1人ががんの時代。がんと向き合う働き方。

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若尾文彦さん

生涯で2人に1人ががんになる現代ニッポン。全てのビジネスパーソンはがんを他人事と捉えず、リスクヘッジを図るべきです。何を心がければがんを予防できるのか?どのような治療がオススメなのか?社員をがんから守るため、そしてがんになった社員を守るため、経営者が行うべきことは?――国立がん研究センター・がん対策情報センター長の若尾文彦氏に話を聞きました。

若尾 文彦(わかお ふみひこ)

1961年生まれ。86年、横浜市立大学医学部卒業。88年、国立がんセンター中央病院入職。放射線診断部医長、がん対策情報センター副センター長を経て、2012年3月よりセンター長に。Webサイト「がん情報サービス」や「がんの冊子」などを通して、わかりやすくて信頼できるがん情報の発信と普及に取り組んでいる。

2人に1人ががんになるが、不治の病ではなくなった

若尾文彦さん

――まず、日本におけるがんの現状を教えてください。

若尾 がんは、1981年に日本人の死因の1位になって以来、右肩上がりで増え続け、現在は年間に87万人ががんと診断され、37万人が亡くなっています。これは、日本人の死亡の3分の1を占める数字です。そして、日本人が生涯でがんにかかる確率は、男性62%、女性47%。つまり「2人に1人はがんになる」というのが現状になります。

――えっ、そんなに多いんですか!?

若尾 はい。ですから、現在健康に働いていらっしゃる方も「がんは他人事ではない」と心得ていただきたいです。

――がんは「不治の病」という印象がありますが、今でもそうなのでしょうか?

若尾 これはそうでもなくなってきており、「5年生存率」は62%まで上がってきています。がんと診断されてから5年経ってもご存命であれば、最初のハードルは越えた状態。つまり「6割以上の方が治る病気」になったと言えます。

――ちょっと安心しました。

若尾 ただし、がんは高齢の方の病気という印象が強いかもしれませんが、働く世代との関わりも深くなってきています。男性は50代後半からがんと診断される方が増加しますが、定年の延長が進む中、ちょうど団塊の世代の患者の方々が会社で働き続けるケースも増えています。

女性も高齢になるほどがん患者が増えますが、乳がんは40代がピークですので、50代前半ぐらいまでの働く世代については、女性の方ががんになるケースが多い。また、子宮頸がんなども20代から診断される方が多いため、女性の社会進出が増える中、職場で女性のがん患者と接する機会も今後増えていくでしょう。

がんの要因は、喫煙がダントツ!

若尾文彦さん

――ズバリ、がんを予防するためには何を心がければよいでしょう?

若尾 それではここで、私どもが推奨する「5つの予防策」を紹介します。

日本人のがんの要因を見てみると、なんと言っても筆頭に来るのは喫煙です。

若尾文彦さん
若尾文彦さん
参考資料:がん情報サービス 科学的根拠に基づくがん予防

男性は3割程度でダントツですよね。さらに、喫煙者がなりやすいがんというものが、これだけたくさんあります。

若尾文彦さん
参考資料:がん情報サービス たばことがん もっと詳しく知りたい方へ

ですから、がんの予防策として真っ先にオススメしたいのは「禁煙」です。そして、受動喫煙も避けることです。

――「禁煙のストレスでがんになるぐらいなら、タバコを吸い続けた方がよい」という声もありますが。

若尾 実は精神的ストレスは、あまりがんには影響しません。「運転のストレスでがんになるのを避けるために運転手を雇う」という経営者の方も中にはいますが、がんの予防という意味では、それはほとんど無意味と言えます。

――精神的なストレスよりも、物質的なストレスの方が影響するんですね。

若尾 はい。お酒もがんの要因となる物質の上位ですから、2番目には「節酒」をオススメします。ただし、タバコは1本も吸ってはいけませんが、お酒は多少なら大丈夫。あくまで飲み過ぎに注意、ということです。

飲んでよい量の目安は、1日当たりアルコール量に換算して23グラム程度まで。日本酒なら1合、ビールなら大瓶1本、焼酎や泡盛なら1合の2/3、ウイスキーやブランデーならダブル1杯、ワインならボトル1/3程度です。

――タバコ、お酒と来て、次は何でしょうか?

若尾 パーセンテージから見ると影響は少ないのですが、「食生活を見直す」ことも有効です。特に塩分の取りすぎは胃がんのリスクになりますので要注意。あとは野菜不足と果物不足にも気をつけましょう。

――「肉や魚の焦げ目を食べるとがんになりやすい」という説もありますが、それは本当でしょうか?

若尾 気にしなくて大丈夫です。さすがに焦げ目ばかりを好んで食べるのは避けた方がよいですけどね。

――その他の予防策は?

若尾 ここからは0コンマ数%の確率になりますが、「身体を動かす」ことも大腸がんなどの予防に有効です。毎日60分程度歩くこと。それに加えて週に1回程度、ジョギングや早歩きなどで汗をかくことでリスクを減らすことができます。

そして「適正体重を維持」すること。BMIの数値が、中高年男性なら21〜27、中高年期女性なら21〜25に収まるよう、体重を管理するとよいでしょう。

以上5つの予防策を講じれば、男性で43%、女性で37%、がんのリスクを減らすことができます。特に喫煙とお酒のインパクトが大きいので、お心当たりのある方は今日からでも禁煙と節酒に取り組むとよいでしょう。

「要精密検査」と出たら必ず受診を

若尾文彦さん

――検診も大事ですよね?

若尾 はい。予防だけでは100%は防げませんので、定期的にがん検診を受けるべきです。会社もそれを奨励すべきですね。検診のメリットは、早期発見と早期治療で、死に至るケースを防げること。がんは自覚症状が出にくいため、検診を受けないとわからないケースが多い。「調子が悪くなったら病院に行けばいいや」ではなく、定期的にがん検診を受けることを心がけてください。

検診の結果、「要精密検査」と出た場合は、精密検査を受ける必要があると言われていることになるのですが、それでも精密検査を受けない方が非常に多い。放っておくと事態が深刻化する場合もありますので、必ず精密検査を受けてください。そして、「がんじゃない」とわかったとしても安心することなく、次回の検診も受けること。その間隔は、下記の図の通りです。

若尾文彦さん
参考資料:がん情報サービス がん検診について

――がん保険には入るべきでしょうか?

若尾 入っておくことで、万が一のときに保障を受けることできますが、普段の保険金も必要となりますので、個々の判断となると思います。また、昔に入ったがん保険をそのまま使い続けていると、入院保障はあっても外来保障はなかったりするので、今の保険に切り替えるのがよいと考えます。昔はがんになると1ヵ月ぐらい入院が必要でしたが、今は治療そのものが変わっており、外来で抗がん剤治療をするのが中心になっています。

――現在、がんの治療はどこまで進化しているのでしょう?

若尾 手術療法、放射線治療、薬物治療の三つが、現在の「三大療法」と呼ばれています。どれか一つを選ぶのではなく、手術と放射線を組みあわせたり、あるいは全てを行ったり。患者さんの状態を見つつ、診察ガイドラインに沿って、「標準治療」として提供します。そして、この三つの組みあわせに加え、緩和ケア(病気に伴う心と身体の痛みを和らげること)も同時に行うのが今のがん治療ですね。

標準治療と最新治療、どちらがよいのか?

――標準治療とは何でしょう?

若尾 標準治療と最新治療があり、多くの方は言葉のイメージだけで後者を選びがちですが、標準とは「並」ではなく、「ゴールデンスタンダード」という意味なんですよ。安全である、あるいは効果があるという結果が臨床試験で出ているものが、標準治療。それがガイドラインに載りますし、国に承認されて保険にも収載されます。

一方、最新治療と呼ばれるものは、新しいがゆえに、本当に効果があるのか、最初は効いたように見えてもその後また悪くなるのか、後から新たな副作用が出現するなどが確認されていない状況なんですね。ですから、標準治療を常に選んでいただくことが正解となります。

――ついつい、なんでも「最新」がよいと思い込んでいました!ところで最近、本庶佑教授がノーベル賞を受賞した影響で「免疫療法」という言葉をよく聞くのですが、これはいかがでしょう?

若尾 免疫療法は三大治療に入っていません。なぜなら、効果が明らかな免疫療法はごく一部だからです。それが、本庶教授の開発した免疫チェックポイント阻害剤ですね。

――免疫チェックポイント阻害剤とは?

若尾 人間の体には細菌やがん細胞を攻撃する免疫が備わっています。一方、がん細胞は免疫からの攻撃に対してブレーキをかけ、自分自身を守ろうとします。このブレーキを解除する新薬が、免疫チェックポイント阻害剤です。これを用いることにより、がんに対する免疫機能の効果が現れることが期待されています。

しかし、世の中に出回っている免疫療法の多くは、効果が確認されていないんです。ですから保険も通らないし薬としても承認されていないのですが、そういう不確かなものを何百万円というお金を取って自由診療で提供しているクリニックが多く、社会問題化しています。

また、「免疫療法は副作用がない」との報道もありますが、そんなことはありません。自己免疫疾患のような副作用が出てしまうリスクがあります。

「高いお金を払えばよい治療を受けられる」という誤解もあって免疫治療にすがる方も多いですが、科学的根拠が薄いため、私どもとしてはこれをオススメできません。

――何が標準治療なのか、などの情報はどこで知ればよいのでしょう?

若尾 全国に400ヵ所以上あるがん診療連携拠点病院のがん相談支援センターにお問いあわせください。がんにまつわる一般的な情報や、医療機関の情報を提供してくれるほか、医療費や療養生活のこと、さらには「仕事を続けられますか?」「会社にどういう交渉すればいいですか?」などの就労にまつわることにも専門家が無料で相談に乗ってくれます。

病院にかかっていない方も、このサービスをご利用になれます。全国の拠点病院やがん相談支援センターは、がん対策情報センターが設けている「がん情報サ―ビスサポートセンター」でご案内しています。

がんになっても会社を辞めるな!

――就労という言葉が出ましたので、ここからは「ビジネスパーソンとがん」についてお聞きします。現在、がん治療をしながら働き続けている方はどの程度いるのでしょう?

若尾 全国に32万人いらっしゃいます。

国も働き方改革の一環として、がん治療と仕事の両立が大事だと考え、さまざまな就労支援を行っています。しかしその一方で、「会社に迷惑をかけたくない」「治療に専念したい」などの理由で退職してしまう方が一定数いるのも事実です。

――その気持ちはわかりますね。自分ががんだとわかった場合、従業員はまずどうするべきだと思いますか?

若尾 すぐに会社を辞める必要はありません。そこで辞めるとさまざまなセーフティーネットを使えなくなりますので、まずは医療機関から自分の状態や今後の治療計画、さらには治療によって起きうる副作用などの情報をしっかりもらって、それを会社の人事や総務に伝えることが先決です。そして、会社とコミュニケーションを取りつつ、会社のいろんな制度を引き出して有効に使いましょう。

特に大企業ですと、がんと診断されても言い出せず、有給をもらってこっそり治療する方もいると聞きます。言うことで解雇や配置転換になるんじゃないかと思ってしまうわけです。ですから、会社としては言い出しやすい雰囲気を作ることが大事です。

がんの社員を救うのは、経営者の愛

若尾文彦さん

――なるほど!そのために経営者は、何を心がけるべきでしょうか?

若尾 まず、「がんを患った人も働き続けることができる」ということに理解を示すのが大事です。それはダイバーシティ経営の一環と言えます。全ての社員がフルタイムで働かなければならないというわけではなく、その人の持っているスキルをいかに生かすかが、これからの経営者の腕の見せ所になると思います。

長く働いてきた方を雇い続けるのと、スキルのない新人を一から育てるコストを比較した結果、前者を有効活用した方が低コストで済むという考え方もあります。

――つまり、がんを理由に解雇をしない方がよいということですね。

若尾 はい。よい会社になるには「社員に愛される会社」にならないといけない。そうなるには、会社も社員を愛さないといけません。

ですから経営者は、がんになった社員が伸び伸びと働ける場を提供するべきです。まわりの社員もそうした会社のポリシーを見ることで士気が上がりますし、生産性も上がるでしょう。

経営者は、そうしたメッセージを常日頃から社員に発信するのがよいと考えます。社内で勉強会を開くのもよいですし、もし経験者がカミングアウトしているのであれば、その方の体験談を社内報に載せるのもよいでしょう。今は地方自治体などが、「がんと仕事の両立」をサポートしている優良企業を表彰していますので、そういう形で注目されれば社員の理解も深まるかもしれません。

受診率100%を実現を目標にし、社員の検診費用を全額会社が負担する、検診時間を勤務時間として扱うなど、ちょっとしたことでも表彰の対象になる可能性があります。中小企業の方が小回りがききますから、そうした取り組みを始めてみるのも一つの手段でしょう。

――最後に、経営者ならびに同僚は、働くがん患者に対し、どのような態度で接すればよいのかを教えてください。

若尾 基本は普段通りが一番です。腫れ物に触るように接すると、患者さんが疎外感を感じてしまいます。「頑張ろう」も辛い言葉です。「もっと頑張れと言うのか……」と受け止められることになりますので、普通に接するのがよいと思います。その上で、患者さんの希望をよく聞く。ここでもコミュニケーションが大事になってきます。

あとは、「お互い様」の心を持つこと。2人に1人ががんになり、がんになっても働き続けられる時代です。いつかは自分も同じ立場なるかもしれない。ですから、手を差し伸べるのはお互い様です。「いいよ、いいよ」と助け合う社風が根づけば、みんなが生き生きと働ける環境になるのではないでしょうか。

企画:大崎安芸路(ロースター)/取材・文:岡林敬太/撮影:栗原大輔(ロースター)

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