トップページ 起業後 だから、中小企業はITを使わない。クラウド普及に挑むソフトバンク「祖業」の打開策

起業後

2019年02月08日

だから、中小企業はITを使わない。クラウド普及に挑むソフトバンク「祖業」の打開策

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記事提供:NewsPciks

クラウドの登場で使いたいアプリケーションを手軽に利用できる環境が整った。限られたリソースで事業を立ち上げるハードルも下がっている。だが、テクノロジーの進化に比例した恩恵をすべての企業が実感しているとは言えず、特に中小企業ではまだまだ活用が進んでいないだろう。

そんな状況を打開しようと始動したのが、ソフトバンクの「BizTERRACE(ビズテラス)」プロジェクト。中小企業をテクノロジーで変えるための情報やアプリケーション、コミュニティを提供していく構想だ。第一弾として2018年7月にスタートした「BizTERRACEストア」は、経営や業務に必要な複数のクラウド型アプリケーションサービス(SaaS)を1つのサイト上に集約し、その場で比較・購入できるマーケットプレイスだ。

「BizTERRACEストア」で実現しようとしている世界はどんな景色か。このプロジェクトを指揮するソフトバンク、そしてこのプラットフォームに参画する中小企業向けSaaSで急成長中の弁護士ドットコム、そしてマネーフォワードが語り合った。

SaaSはなぜ、日本企業に根付かないのか

――ソフトバンクは、携帯電話を始めネットワークのイメージが強く、ソフトやクラウド流通・販売ビジネスの印象がありません。

小川(ソフトバンク) 実は、ソフトの販売はソフトバンクのルーツなんです。「ソフトバンク」いう社名も、創業事業がパソコンのソフト流通であったことに由来しています。

コンピュータが徐々に普及した1980年代初期、ハードウェアを流通させる商社や流通業者はたくさん登場してきたのですが、ソフトを世界に広める役割を担う企業はほぼいなかった。それに着眼した孫(正義)が、1981年に立ち上げたのが日本ソフトバンク(その後、ソフトバンクに称号を変更)です。

その後、業容は拡大し、みなさんがイメージする携帯電話やインターネット接続サービス、ロボット、AIなどさまざまな事業を展開していますが、創業事業のソフト販売は今でも主要ビジネスの一つです。

ですから、ソフトバンクがSaaSのマーケットプレイスをやるのは必然。創業から40年弱のビジネスですから、提供形式がクラウドになってもノウハウは生きますし、ベンダーの方々との連携も強固です。あまり目立たない地味なビジネスかもしれませんが(笑)、決して思いつきで始めたわけではありません。

――「BizTERRACEストア」が担う役割は、どのようなものでしょうか。

小川 SaaSベンダーとSaaSを必要としている企業とを繋ぐためにクラウド上で展開するマーケットプレイス、いわば「市場」のような場所です。ソフトバンクの市場の運営会社のような存在です。

――SaaSのマーケットプレイスは他社も手がけています。ユニークネスは何ですか。

1つ目の特長は、購入までその場で行える点です。使いたいSaaSをWeb上で選んですぐにトライアルを始められ、さらに購入したい場合はカード決済までできます。これまでSaaSの比較や資料請求ができるWebサービスやメディアは存在していましたが、その場で決済、使い始められるプラットフォームはありそうでないんです。

2つ目は品揃えの豊富さ。昨年7月のサービス開始時点から約半年で60種類ほどの主要SaaSを揃えました。数だけを追い求めるつもりはありませんが、企業の経営、業務に必要なアプリケーションはすべて取り揃える予定で、今後も数は増やしていきます。

3つ目の特長は、単純にネット上に製品を並べるだけではなく、人による電話相談などを通して企業の課題や悩みを聞き、どのサービスが適しているかのアドバイスも行っています。

いわば、サービス選びのコンシェルジュとしての役割も果たしている点です。

2005年、リクルートを退社後、インディペンデントコントラクターを経てソフトバンクに入社。法人事業の各部門を経て、現在はオンラインマーケットプレイス事業を担当。

――「BizTERRACEストア」は、どのような企業が利用することを念頭に置いていますか。

小川 企業の規模にかかわらず活用していただきたいのですが、とくに中小企業の力になりたいという思いを持っています。テクノロジーって便利な一方で、面倒とか難しそうというイメージがありますよね。専門の人員が乏しい中小企業にとっては敷居が高く、それがIT化の遅れを招いています。

SaaSは初期導入や運用がかなり楽なので、中小企業にも適している。ですから、もっとSaaSの利点を世の中に広めたく、その役割を「BizTERRACEストア」が担いたいと思っています。

――中小企業にSaaSが浸透していない背景には、どういう課題があるのでしょうか。

小川 乗り越えなければならない山が大きく2つあります。一つは、そもそもSaaSという解決策を知らないことです。それ以前に、社内にある課題を明確に把握できていないこともあるので、まずはそれを把握する必要があります。そして解決の方向性として、ツールの導入でコスト削減や生産性向上につながることを知ってもらう必要があります。

もう一つは、ツールの価値は分かっていても、導入を推進する人が社内にいないという問題です。

――個人向けアプリが有名ですが、その一方で会計を中心に中小企業のバックオフィス業務を支援するSaaSにも強いマネーフォワードはどう見ていますか。

山田(マネーフォワード) 中堅規模以上の企業とは異なり、中小規模だと情報システム部門や専任担当者がいない、あるいは社長みずから何でも担当する企業もあり、新たなソリューションを導入したくても対応する余力がない状況は大きな要因でしょう。

また、同じカテゴリのSaaSが増えるほど、どれを選ぶべきか判断するのも大変。目利きとして寄り添ってくれる存在がいなく、逆にそうした企業、人が必要なんだと思います。

2006年に公認会計士試験に合格し、監査法人トーマツに入所。その後、株式会社パンカクにて執行役員経営企画担当 兼 CFO、株式会社Bridgeにて執行役員ベンチャーサポート事業担当。2014年に株式会社マネーフォワードに入社後、社長室長を経て、『マネーフォワード クラウドサービス』を中心としたビジネス向けサービスの事業戦略部長。

試行錯誤のSaaS浸透戦略

――「BizTERRACEストア」で提供している弁護士ドットコムの「クラウドサイン」とマネーフォワードの「マネーフォワード クラウドシリーズ」は中小企業に強い。どのようにサービスを広めていったか教えてください。

山田 「マネーフォワード クラウドシリーズ」は、経理や人事労務などバックオフィスの業務をクラウドで行い、効率化するサービスです。多くの企業にお使いいただいていますが、その大半が中小企業です。

販売戦略として、当初Webマーケティングだけで売り切れると思っていたのですが、実際はそう上手くいかなくて……。最初は苦労しました。

中小企業が自分たちの判断で会計ソフトを選ぶのは容易でなく、会計事務所に勧められたものを使うことが比較的多いんです。だから、中小企業に直接ではなく、まずは会計事務所にサービスの良さを知ってもらい、紹介によって広げてもらう戦略に切り替えてそれが功を奏しました。

会計事務所は、中小企業のバックオフィスを良くしようという思いを持ってコンサルティングも提供しています。「マネーフォワード クラウドシリーズ」の価値を感じてパートナーになってもらえたのは、サポート面でも理想的な形でした。

――先ほど話していた、中小企業の「寄り添ってくれる存在」である会計事務所を味方にした、と。「クラウドサイン」はどうでしょうか。

橘(弁護士ドットコム) 「クラウドサイン」は、従来は紙と印鑑で行っていた契約締結をオンラインで完結し、手間やコストを大幅に削減できるサービスです。

弁護士ドットコム執行役員 クラウドサイン事業部長。弁護士。クラウド契約サービス「クラウドサイン」の事業責任者の他、ブロックチェーン技術を活用した「スマートコントラクト・システム」等の研究開発を担当している。

「クラウドサイン」の場合、「業務効率化」より「コスト削減」を訴求したのが功を奏しました。3万社のユーザーのうちの多くは100名以下の中小企業やベンチャーで、電子化による郵送コストや印紙税が不要といった魅力が刺さっています。

もう一つ、プロダクトの特性を生かした戦略として、最初は大企業に営業リソースを集中させました。契約書は、必ず相手がいるものです。例えば大企業が毎月500社の取引先とクラウドサインを使ってくれれば、プロモーションしないで500社に認知してもらえます。

いいサービスだと思って採用してもらえれば、またその先の取引先にも広がっていく。中小企業にもどんどん浸透していきました。

「サブスク」に慣れているソフトバンクの強み

――両者とも、ユーザー数も多く知名度も高い印象がありますが、新たな販路として「BizTERRACEストア」を追加した理由は何ですか。

 「クラウドサイン」はリリースから3年が経ちましたが、今のところ営業拠点は東京に絞っています。関東地区は自前の営業リソースでクロージングまで行えますが、Web商談を活用しているものの、地方の特に小規模事業者に訪問して営業するのは難しいのが現状。

シェアは8割超ですが、全国展開できているとは言えません。そんな中で、ソフトバンクのメディアパワー、そしてクロージングまでできる営業パワーを味方にできるのは魅力でした。

山田 当社は個人向けのお金の見える化サービス「マネーフォワード ME」の知名度はありますが、ビジネス向けの「マネーフォワード クラウドシリーズ」はまだまだ。「法人サービスを展開していたの?」と言われることも少なくありません。ですから、知名度向上、ブランディングは重要な戦略です。そんな中で知名度のあるソフトバンクのプラットフォームを活用できることは大きな武器でした。

――運営する立場として、どのような魅力を提供できると考えていますか。

小川 SaaSベンダーからすれば、これまでの比較サイトが持つ機能は送客にとどまるので、せっかく興味を持ってもらえても打ち手が限られます。

一方、SaaSの導入を検討している企業にとっては、各社からの営業攻勢が始まることが予想できるので、比較サイトの利用を躊躇することもあります。

「BizTERRACEストア」は単なる送客だけでその後は関わらないという立場ではなく、両者を取り持ち、購入まで行えるプラットフォームであることに価値があります。

異なる企業の複数のSaaSを購入した場合でも請求者は個社ごとではなく一括対応できるようなことも細かいことですが、人材が乏しい中小企業にはメリットを感じてもらえると思います。

また、インサイドセールス担当者が検討中の企業に電話で課題を聞いて、どのツールが適しているのか緩やかなリコメンデーションもしていて、これが好評なんです。

山田 従来型のシステムならSIerがコンシェルジュとしての役割を担っていましたが、SaaSは少額なのでSIerの経済合理性が合わず、SaaS分野におけるコンシェルジュは「不在」です。ですので、「BizTERRACEストア」の存在は非常に意味があると思います。

 おっしゃるとおり、SaaSは月額、年額課金のサブスクリプションモデルなので、高額なハードやソフト、システム開発で高額なビジネスを手がけるSIerに目先の金額は小さいだけに売ろうという意欲がわきにくいんですよね。SIerの中にはSaaSの再販を始めたとしても続かないことが多い。

そういう意味だと、月額課金や従量課金に慣れている通信、ネットワークサービス会社は相性がいい。そういう意味でも「BizTERRACEストア」に期待が大きいんです。

売って終わりではない、顧客に寄り添うプラットフォームへ

――今後どのような展開を考えていますか。

 中小企業に浸透してきたと言える数字は、100万事業者だと思っています。そこに最短で到達したいですね。法令上は問題ないのに、紙じゃないとダメ、ハンコがないとダメという心理や慣習をどう解きほぐしていくのか。「ぜひ使いたいけど、取引先が嫌がるから」と二の足を踏む企業もあって。

小川 ハンコとの戦いですね(笑)。「マネーフォワード クラウドシリーズ」はどうですか。

山田 経理・財務、人事・労務のプロダクトをメインに、SaaSで中小企業の課題解決を図ってきましたが、周辺には課題がまだ多くて。特に資金繰りに課題がある中小企業が多いので、融資するグループ企業を立ち上げるなど、機能を拡充しています。

働き方改革、生産性をどう上げるのかという悩みもあります。中小企業はとくに深刻でしょう。従業員のワークスタイルを見直せるようなサービスを出していきたいですね。

――「BizTERRACEストア」の今後は、どう考えていますか。

小川 まずは数よりも質を重視して、中小企業にとって使いやすく魅力あるサービスへとブラッシュアップを図ります。まずはこれからの半年で、カテゴリごとに3~5商材を揃えて選択肢を充実させ、近々に50カテゴリで150から200種類のSaaSを揃えます。

将来的にSaaSだけではなく、ビジネスに必要なツール、機器も含めて数千種類の品揃えをし、単純に並べるだけの「勝手に選んでください」という姿勢ではなく、一つひとつの問い合わせに丁寧に対応することで、中小企業のIT化を進めたい。まずはそこがゴールですね。

 SaaSの場合、売った後がとても大事になります。カスタマーサクセスのために、お客さまに最適な使い方をしてもらい、新機能をキャッチアップしてもらう運用が必要ですよね。

小川 そこで「BizTERRACEストア」は、売った後のサポート、カスタマーサクセスまでも担っていくプラットフォームにしたいと考えています。

それから、課題の解決策はSaaSだけではありません。人材採用サービスとの連携も可能でしょうし、大企業と中小企業の両方にコネクションを持つことになるので、オープンイノベーションのマッチングもできるはずです。

単なるテクノロジーの提供だけでなく、人的サービスも含めた包括的なサービスの場、コミュニティの場にできればと思っています。

「ここにくれば、なんとか解決してくれる」。そう中小企業の方々に思ってもらえる存在になりたいですね。

(取材・編集:木村剛士、撮影:北山宏一、構成:加藤学宏、デザイン:田中貴美恵)

比較検討から購入まで
クラウドサービスの導入は「BizTERRACEストア」へ

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