トップページ 成長するために必要なこと 買収者と売却者が振り返る、メディアM&Aリアル交渉劇 前編

成長するために必要なこと

2019年03月15日

買収者と売却者が振り返る、メディアM&Aリアル交渉劇 前編

この記事をシェア twitterfacebookこのエントリーをはてなブックマークに>追加

勝俣さん金田さん熊田さん

ニュースなどでよく聞く企業や事業のM&A(買収や合併)。しかし、実際にM&Aの交渉の当事者になる機会はなかなかないでしょう。

そこで今回BizTERRACEマガジンでは、とあるメディアを買収した企業と、それを売却した企業の両者が登場し対談するという貴重な企画をお届けします。M&Aの現場ではどんな交渉がもたれ、実際に何が行われるのか。生々しい交渉劇を赤裸々に語ってもらいました。

【会社プロフィール】

株式会社アルゴリズム
既存の価値基準とは異なる新しいメディア創出を目指し、女性向け、旅行、ECの3分野に主軸を置いてメディア事業を展開。創業は2018年1月。創業からの1年間に7つのメディアを買収するなど、積極的にM&Aを進めている。2018年10月に、Webメディア「minari」を株式会社MEMOCOより事業買収。

勝俣 篤志(かつまた あつし/写真左)

株式会社アルゴリズム代表取締役社長
学生の頃より個人でWebサービスの立ち上げ・売却を経験する。「情報の価値を最大化する」ということを掲げ、1億人にリーチできるメディアの新しい経済圏を作るために事業を推進する。

金田卓也(かねだ たくや/写真中)

株式会社アルゴリズム取締役副社長
13歳より個人事業主として受託開発をはじめ、20歳のときにスタートアップ企業を設立。ソーシャルゲーム開発に挑戦しピボットした後、メディア事業を立ち上げ半年で事業売却。

株式会社MEMOCO

2016年10月創業。『あなたを本気で喜ばせる。』をコンセプトに複数の自社メディアを展開。月間1000万PV突破したギフト特化メディア「メモコ」を中心に、新メディアも続々と立ち上げ中。minari売却益を元手に、メモコのリブランディング戦略や、新メディアの編集部構築、新規事業への投資など事業拡大中。

熊田貴行(くまだ たかゆき/写真右)

株式会社MEMOCO代表取締役社長
ヤフー株式会社にて広告営業を経て、カンボジアで飲食店とホテル経営を3年間行う。外国人観光客への接客サービスを通じてコンシェルジュ、ホスピタリティの価値と可能性を肌で体感。2016年に日本へ帰国し、カンボジアで得た経験を踏まえ、『あなたを本気で喜ばせる。』をテーマに、ギフト特化メディアのメモコなど複数の自社メディアを運営中。

実は会う半年前から買収のアプローチをしていました

勝俣さん金田さん熊田さん

――はじめに、両社の事業内容を教えてください。

勝俣 メディアのプラットフォーム作りが、アルゴリズム社の基本事業です。昨今、「ネットの情報は信頼できない」とも言われるなかで、信頼できる情報を発信・マネタイズすることで、コンテンツの制作者・読者の双方が報われるような新しいメディアの形を作っていこうと考えています。

金田 そうした信頼できるメディア作りを、さまざまな分野で進めていきたいと思っています。そのための一手段として積極的に行っているのが、WebメディアのM&Aです。私達の考える“良質な情報発信”を行う土壌となりうるメディアを引き継がせていただき、普通であれば5年かかって達成できることを1年にショートカットしてやっていくつもりです。

勝俣 創業から約1年で、すでに7つのメディアをM&Aさせていただきました。

熊田 MEMOCOもメディア運営を行う会社で、現在5つのメディアを運営しています。もともと僕が純粋に贈り物とか人を喜ばせることが大好きで、それを仕事にしたいという思いから起業しました。最初にギフトをテーマにした「メモコ」というWebメディアを立ち上げたのですが、人を喜ばせることってギフトだけじゃないよねということで、現在は家具や転職、恋愛系のメディアも展開しています。

勝俣さん金田さん熊田さん
ギフトをテーマとしたメディア「メモコo」のTOPページ

――今回売却した「minari」はどんなメディアでしたか?

熊田 元々はお悩み解決系のメディアで、こちらも会社設立とほぼ同時に立ち上げました。SEO施策を徹底して行った結果、莫大なアフィリエイト収入と広告収入が入るようになりました。そのおかげで、わずか1年で創業時の借金・数千万円を完済し、事業黒字のフェーズに入ることができました。ところが2018年8月に行われたGoogleの検索アルゴリズムのアップデートによりWebサイトの検索順位が下がり、収益が大きく減少してしまったんです。

その1年くらい前から、いずれくるであろう検索アルゴリズムのアップデートに備え、WebサイトのテーマをEC的な方向にシフトするなど対策は講じていたのですが、力がおよばなかった形です。

――M&Aの話はどのように始まりましたか?

熊田 2018年9月に、仲のいい後輩から「熊田さんと同じようにメディアをやっている人がいるので紹介したい」と言われ、金田くんと会うことになったんです。

金田 実は僕の方はその半年くらい前からminariに興味を持ち、買わせてもらえないかと思っていました。

熊田 またまた。それはリップサービスでしょ。

金田 いえ、本当です。実際にMEMOCOさんのWebサイトの問い合わせ欄から打診もしています。

熊田 え、ホントに!?

金田 そのときは残念ながら返事はもらえませんでした。そりゃそうですよね。いきなり「M&Aをしたい」と言われても「は?」と思うのが普通です。

熊田 いやあ、全く知らなかった…。

金田 僕らは魅力的なメディアを見つけては、メールやSNSでコンタクトをとっています。だいたい100件送ったら10件返事があるかないかという世界で、そのうち会って交渉に入れるのが3~4件、そしてM&A交渉がまとまるのが1件、というような確率です。

熊田さんとも接点をいろいろ探した末に、Facebookで僕の先輩が熊田さんと知り合いであることを知り、ランチミーティングをセッティングしてもらったんです。だから、実は半年越しの悲願だったんです。

熊田 そうだったんだ!? 僕としては、ただ同じメディア事業をやっているどうしでご飯を食べるだけで、買収の話が目的だとは思っていませんでした。

初ランチが終わった時点で、売る気持ちが固まっていた

勝俣さん金田さん熊田さん

――アルゴリズムとしては、minariのどんなところに魅力を感じたのでしょう?

金田 一番の理由は、ほかの成功しているWebサイトを表面的に真似るのではなく、本質的な価値のあることに先駆者として挑戦されていたところです。表向きに見えている数字以上の価値が、このメディアにはあるなと思いました。具体的には、minariはネット上でただ商品を紹介するのではなく、実際に商品を買ってライターが使ってみたうえでのリアルなレビュー記事を作っていたんです。

にもかかわらず2018年8月以降、検索順位が大きく下がってしまっていた。僕らからすると、こんなに高品質なメディアなのに、正当に評価されていないなという見方でした。

勝俣さん金田さん熊田さん
現在アルゴリズム社が運営をしている美容メディア「minari.」のTOPページ

熊田 本当に毎月、数百という商品を購入し、ライターさんたちにせっせと送っていました。商品を管理するのはすごく大変だし、お金もかかります。でも僕は「面倒臭さに幸あれ」じゃないですが、面倒なことを愚直にやるところに大きな価値があると思ってやっていました。頭のいい人ほど、そういう泥臭いことをあまりしないからです。

――初対面のときにはどんな話し合いがもたれましたか?

金田 熊田さんと僕と紹介者の3人でランチをしたのですが、9割方は互いの人となりを理解し合う時間でした。僕も熊田さんがどんな人か知りたかったし、逆に自分がどんな人間か知ってもらいたかったからです。その上で、本当に最後の10分ほどでM&Aの相談をしました。

熊田 売却目的でお会いしたわけではなかったのですが、売却の話は自分の方からダメ元で切り出しました。

――それはなぜでしょう?

熊田 minariは自力で立て直すつもりでしたが、本当にこのメディアに注力し続けて大丈夫なのか?という経営者としての不安もありました。だから頭のどこかに「売却」が選択肢の一つとしてあったんです。ただしせっかくここまでやってきたのだから、売却するにしてもできればメディアとして存続してほしい。そんななかで金田くんと会い、その人柄と思いを知ったことで、この人なら信頼できそうだし、minariを継続してくれそうだと思えました。

またその頃、もう一つの主力メディアである「メモコ」が伸びてきていました。だから今売却のお金が入れば新しい人材も雇え、より大きなチャレンジができ、会社としてすごく前向きになれるんじゃないかと考えました。そんなわけで、金田くんとのランチが終わった時点では、もうminariを売る気持ちが固まっていました。そこからすぐに契約の話が進んでいきましたよね。

金田 そうですね。双方の人となりを知って、事業への思いを確認できたことで契約に向けてスピーディに動きはじめることができましたね。ランチした直後の1週間ほどは、デューデリジェンス(投資先調査)をさせてもらいたいということで、minariの事業状況や業績などさまざまなデータを挙げてもらいましたが、そこから約1週間後にはこちらから金額の初期提示をさせていただきました。さらにその後の1週間ほどで、細かな支払い条件などを詰め、最終的には、初めのランチから3週間弱という短期間でM&Aの契約を締結しました。

高すぎず・安すぎない、とてもリアルな金額だった

勝俣さん金田さん熊田さん

――買収金額は?

金田 具体的な金額は控えるものの、僕らの会社にとってはけっこう大きな金額でした。通常のM&Aですと、”現状維持もしくは伸びている状態”の事業に対して売り上げの何倍という形でオファーを行いますが、今回はSEOで下落した直後という特殊な状況で、不確実性が高い状況でした。ただ、その上で未来にバリューアップできた可能性を前提に、(オファー金額は)大きくチャレンジしたなと。

もちろん、足元状況だけで金額を出すこともできましたが、それでは「創業者の思い」であるとか「築き上げた資産の本質的価値」などが考慮されていない金額になってしまいます。そういう背景も踏まえて、オファー金額の算定にあたっては、自分たちにとって無理のない金額であり、かつ相手にとってもモヤモヤ感が残らず気持ちよく譲渡していただけるベストな落としどころを常に目指しています。

僕自身も以前、自分の会社を売却した経験があり、売る側の心境もわかっている。ゼロから手塩にかけて育てた事業ですから、そうした数字に表れない“思い”の部分もできるだけ金額に反映するようにしています。

――その金額を聞いたときの熊田さんの率直な感想は?

熊田 リアルな数字だなと思いました(笑)。高すぎもせず、安すぎもせず、もし僕が買収する側であっても同じような金額を提示していたでしょうね。人によってはもっと高く売れたのでは?と思うかもしれませんが、僕らが互いに納得した金額なので、いい落としどころだったのかなと思います。

支払い方法は二分割になりました。本来は一括がよかったのですが、そのぶんトータルの金額を譲歩していただきました。ほかにも金額や支払いに関する細部を詰めるため、最後に何度もやり取りをしましたよね。

金田 めちゃくちゃ電話しましたね。

熊田 これ、税込なんですか? とか(笑)。

勝俣 最後にそこを詰めるのかっていう(笑)。

熊田 やっぱり初めての経験なので、いろいろ不安がありました。なかでも最初に金額提示を受けてこちらの希望を伝えた後、3~4日ほど相手待ちの状況になったのですが、この次はどんな展開になるんだろうとかなり不安になりました。「やっぱり買わない」とか、「もっと価格を下げます」ということもありえるんじゃないかなと。

なんといってもこれまで会社を支えてきた主軸事業を手放すわけなので、最後の最後までためらいがあり、契約書に判子を押すのにも3日かかりました。いざ捺印するときは、本当に手がブルブルと震えました。

――なぜ3週間弱という短期間でM&Aの話がまとまったのでしょう?

金田 M&Aをする際は、スピード感をとても重視しています。やっぱり多くの経営者はいい意味で朝令暮改です。やろうと決めるのも速いし、反対にやめる決断も速い。だから買収できる一瞬のチャンスを逃したら、次はもうないと考えています。

スピーディに検討を進めるために、我々は買収の話を持ちかける前から、分かる範囲でその会社の経営状況であるとか事業の数字を予測し、買った後のビジョンを明確に描き、M&Aに臨みます。だからデューデリジェンスで挙がった数字が予想の範囲内であれば、「これならいけるぞ」と直ちに前へ進めるんです。

熊田 やっぱり僕としても遅いのがいやなので、もしことの展開が遅ければ「じゃあ自分たちでやるからいいわ」となっていたと思います。そういう点でも、アルゴリズムさんじゃなければM&Aは成立していなかったのかなと思いますね。

【後編予告】買収者と売却者が振り返る、メディアM&Aリアル交渉劇 後編

勝俣さん金田さん熊田さん

売る側は完全に“はじめまして”のつもりで会ったのに、実は買う側は半年も前からアプローチをしていたという、とても生々しいM&Aストーリーでした。

後編では契約締結後のリアルストーリーに加え、M&Aを通じて両社が得たものを紹介します。

▼後編を読む

企画:大崎安芸路(ロースター)/取材・文:田嶋章博/写真:栗原大輔(ロースター)

この記事をシェア twitterfacebookこのエントリーをはてなブックマークに>追加

新着記事