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2019年03月28日

日本の100年企業に世界が学ぶ? 国連が採択したSDGsと日本型経営の親和性

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甲木浩太郎さん後藤俊夫さん

「SDGs」という言葉をご存知ですか? 今日本では、このSDGsの枠組みに基づいた企業の在り方や制度、意識の改革が、政府の積極的な取り組みの中で進められています。

SDGsとは、2015年秋、国連において加盟する全193の国と地域によって全会一致で採択された国際開発目標です。2030年までに世界が目指すべき17の目標、169のターゲットを定め、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」として採択されました。わかりやすく言えば、「2030年に向け、世の中をもっと平等に、もっと環境にやさしく、もっと平和にしていく」ための目標といえるでしょう。Sustainable Development Goalsの頭文字に複数形の「s」をつけ、SDGsと呼ばれています。

国連で採択され、その後世界的にSDGsの考え方が浸透する中、この枠組みの大きなテーマである持続可能性という点において、一般社団法人100年経営研究機構代表理事の後藤俊夫さんは、「日本における100年企業の経営姿勢こそSDGsの考えに通じるもの」とし、持続可能な社会の実現において100年企業に学ぶ点、中小企業が果たすべき点は非常に多いとおっしゃいます。後藤俊夫 代表理事は、長年にわたり日本の100年企業、ファミリービジネスを研究され、その著書は英語や中国語にも翻訳され出版されるなど、国内はもちろん世界的にもその名を知られる長寿企業研究の第一人者です。

今回は、その後藤さんと、政府の立場からSDGsの推進に取り組んでいる外務省国際協力局 地球規模課題総括課の甲木(かつき)浩太郎課長に、100年企業、中小企業とSDGsの考え方の親和性について語っていただきました。

甲木 浩太郎(かつき こうたろう)

1994年東京大学法学部卒業後、外務省入省。1998年ハーバード大学文理大学院修士取得。在アメリカ合衆国大使館一等書記官、在中華人民共和国大使館参事官、経済局南東アジア経済連携協定交渉室長などを経て、2017年より現職。2004年から2008年まで中央大学法学部非常勤講師も務めた。

後藤 俊夫(ごとう としお)

東京大学経済学部卒業後、NEC 入社。1974年ハーバード大学ビジネススクールにてMBA取得。(財)国民経済研究協会・常務理事兼企業環境研究センター所長、静岡産業大学国際情報学部教授、光産業創成大学院大学統合エンジニアリング分野教授を経て、2011年より日本経済大学渋谷キャンパス教授に就任。同経営学部長を経て、現在は同大学院特任教授。日本における長寿企業、ファミリービジネスの第一人者として、国内外の大学における教育活動および大手企業など各方面での講演・セミナーを積極的にこなしている。

SDGsの主流化が日本の成長戦略を後押しする

甲木浩太郎さん
甲木浩太郎さん

後藤 私が100年企業の研究を始めたのは1999年からで、ちょうど今年で20周年になりますが、当然その頃はまだSDGsという言葉はありませんでしたし、研究テーマも単純に「100年以上も企業やお店が続くのはなぜなんだろう」という興味中心のスタートでした。

しかし研究を重ねる中で、松下幸之助のひとつの経営哲学でもあった、いわゆる「社会の公器」思考こそが日本型経営の本質であり、甲木課長が取り組まれているSDGsに通じることを当たり前にやってきたこと、それが長期経営につながっているんだということに気づいたわけです。そこをぜひ今日はお話しできればと思います。

甲木 SDGsという枠組みは世界中の国連加盟国が合意してできたわけですが、できたものを見ると、確かに我が国の人々がもともとやってきた、とても得意なことを、世界が枠組みとして決めてくれたわけです。ですから政府としても、まさに今それを活用して、ますます日本を世界にアピールすることにつなげようと取り組んでいます。世界でSDGsが主流化すればするほど、我が国の成長戦略に資する流れになるのではないかと思っています。

100年企業のビジネスモデルはSDGsそのもの

甲木浩太郎さん後藤俊夫さん
SDGsにおける17の目標はカラフルなアイコンによって示されている

甲木 SDGsには17の目標があります。その目標はそれぞれアイコンで表現され、3列に分かれて示されていますが、その1列目、1から6までの目標は、貧困、飢餓、保健など、生きることにおいての非常に根本的な課題、つまり伝統的な開発課題について、これまでの取り組みをさらに深彫りしようという目標が掲げられています。

これだけであれば、先進国が途上国を助けるという、従来からある取り組みの話になるわけですが、SDGsの大きな特徴は2列目、3列目の存在です。2列目の目標は、エネルギーや雇用、インフラ、持続可能な消費と生産など、経済発展を遂げていく中でどの国も必ず取り組まなければいけない課題が挙げられています。これがあることによって、先進国も含めて自分事で国づくりの取り組みをしてもらおうということです。

さらに3列目は、比較的新しい課題として、地球環境、気候変動といったものに加え、平和や国際的なパートナーシップにおいてさまざまな主体が協力し、客観的な指標に基づいて進捗を管理しながら取り組んでいくことが定められています。

この2列目、3列目があることによって、先進国も途上国も、政府も企業も自治体も市民社会も、みんなが取り組んでいくべき内容となっているわけです。

後藤 その17の目標の多くの部分において、長寿企業の経営の考え方との共通点があると私は思っています。

日本で100年以上の歴史を持つ長寿企業は、そのほとんどがファミリービジネス、つまり親から子へ会社が受け継がれているケースです。その土地で生まれ育った人が事業を始め、その人のもとに生まれた子供が事業を受け継ぎ、またその次の代へと事業が移る。地域という共同体で生活し、学校へ行って、社会でかわいがられ、成長して、ビジネスをするわけですね。そうなると、当然ながら地域への愛着が生まれ、恩返しの想いが湧き上がります。これはもともとは日本固有の発想だったのかもしれませんけど、まさにSDGsでいうところの「持続可能な社会」を作ることにつながる考えだと思います。

甲木 おっしゃる通りだと思います。日本人が古来から生活に望む態度の中には、自分ばかりがよければいいということではなく、地域との共生であるとか、短期より中長期を見据えて相手あるいは地域の利益も重視して物事に取り組むという考えが、根本としてあるのかなと思います。宗教を見ても、神道における自然との共生とか、仏教なら利他の思考であるとか、日本人の中にそうしたものが根付いていることは間違いないと思います。そして長寿企業は、営々と事業承継を行いながらその存在自体によって持続可能な経営を体現している、そういう意味でSDGsそのものと言えると考えています。

地域貢献に関わらない企業に長寿企業は存在しない

後藤俊夫さん
後藤俊夫さん

後藤 具体的な例で言えば、醤油で知られるキッコーマンは、法人として始まったのは1917年ですが、醤油づくり自体はそれより遥か以前の17世紀から続いていて、300年を超える歴史があります。今、千葉県の野田市にあるキッコーマンの資料館に行くと、大きな石碑がいくつも立っています。その石碑には、江戸時代の飢饉のときに何千人もの人々を助けたということが記されていて、そうした石碑がいくつもあるわけですね。こうした取り組みもSDGsにつながるものだと私は思っています。

つまり、事業というものは私利私欲のためだけのものじゃないんだ、お役立ちなんだということです。おそらく、地域貢献に関わらない企業に長寿企業は存在しない。それが私の結論です。

甲木 非常に強いメッセージだと思います。我々も、SDGsと日本の中小企業、長寿企業が結び付くのではないかという考えに至って、政府の取り組みとして少しずつ進めているところです。具体的には、昨年の12月21日に総理官邸においてSDGs推進本部が開催されまして、「SDGsアクションプラン2019」が発表されました。その冒頭には、中小企業に向けたSDGsへの取り組み強化についても明記されています。全閣僚が集まる推進本部で総理がこれを決定されたことは、非常に大きいことです。

中小企業に向けた具体的な取り組みとしては、SDGsに積極的な企業や団体を表彰する「ジャパンSDGsアワード」の受賞団体に多くの中小企業が見られることや、全国のファミリービジネスの承継者が多く入会している日本青年会議所と外務省との間でSDGs推進に関するタイアップ宣言に署名し、大臣が会員に向けてSDGsについて講演をしたり、地方創生に向けたSDGs推進事業として毎年30程度の「SDGs未来都市」を選定したり、地銀、第二地銀など地域の金融機関にSDGsへの理解を深めてもらい、SDGsに取り組む企業へ積極的に融資をするよう働きかけたりと、さまざまな取り組みを政府としても行っています。こうしたさまざまな取り組みを通じて、そのほとんどが非上場企業である中小企業においても、SDGsを通じてビジネス環境が改善するという好循環をつくり出せたらと考えています。

後藤 私の研究の立場から付け加えますと、長く続ける企業の特徴として「地域密着」ということを先程申し上げました。最近はそれをもっと深めたところで、企業として事業の儲けがあって、その儲けをもとにお役立ちをするのではなく、地域のお役立ちをしたからこそ事業が100年続いたんだと考えるようになりました。今のご指摘に置き換えれば、SDGsを着実にやってきたから続いているということですね。

社会的意義に対応する企業でなければ社会から評価されない流れになりつつある

後藤 これは日本ではなくインドの事例なんですけども、企業のミッションは社会貢献だという会社がありました。社会貢献をするために利益が必要なんだと。日本とは逆の発想ですよね。彼らの地域貢献とは何かといったら、学校を作ることや、病院を作ること。つまりインフラを作ることです。それをやるためにはお金がなくちゃいけない。だから自分たちは事業をやるんだ、そのためには事業を伸ばしていかなくちゃいけないと言うわけです。私も、もしかしたらそっちの方が正しいことなのかもしれないと思うようになりました。事業を続けるためこそ社会貢献をしなくちゃいけないと。

甲木 おっしゃる通りだと思います。日本の企業も、最初はSDGsをCSRのようなものだと思っていたんじゃないかなと思います。本業で環境などに負荷をかけている、その埋め合わせを本業以外でするような発想だったと思いますけど、それはもう時代に合わない発想になってきています。事業でかけた負荷の埋め合わせをするんじゃなくて、まさに本業でSDGsをやると。社会的に意義がある活動、あるいはそれに対応する企業でなければ、市場や社会から評価されないという流れに世界的になりつつありますので、まずSDGsそのものに直接取り組むということは、とても意味があると思います。

後藤 女性の活躍についてもそうですね。SDGsにも「ジェンダー」という目標がありますけれども、そもそも女性の「活用」という言葉がおかしいんじゃないかと思うんです。男性も女性も一緒に社会を構成しているわけだから、活用ではなく女性が活躍しやすいような場にすれば、その企業も伸びるんだと。それが地域の活性化につながり、企業が長寿になることにつながるんだという発想が必要ですね。それが生命線だとまで言いきることができれば、非常に力強い持続可能への歩みとなるんじゃないかと思います。

甲木 ジャパンSDGsアワードを受賞した会社の中にも、子連れ出勤をOKにしたら、大都市の一流企業で働いていたけれど出産後なかなか復帰できずにいた優秀な女性を社員として採用することができた、という企業がありました。

施策に取り組む側として、企業の間にもSDGsの認識が広がりつつあるように感じますけど、まだまだやはりCSRマインドで取り組んでいる企業もあるように感じます。しかし、長年研修をされてきた後藤先生がおっしゃるということはなおさら説得力がありますので、我々にとって、今後さらにSDGsというものを考えるときの理論的支柱にさせていただき、今後の施策に活かしていけたらと思います。

後藤 研究の立場からも、ぜひお仕事に貢献させていただければと思いますし、中小企業にとっても非常に励みになる施策をお願いしたいと思います。ありがとうございました。

文・写真:髙橋晃浩

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